RX ノイズ処理ガイド
概要
iZotope RX を使用した音声のノイズ処理手順を定めます。本ガイドは RX ver6 以降であれば適用できます(推奨: RX10 Standard)。編集作業の8割は本ガイドで紹介する選択ツールと基本処理でカバーできます。
参照元
Google Drive 上の参考動画(
台本/資料/エンジニアの極秘資料/RX音声処理参考/): -RX音声処理参考_Declickのうまい使い方.mov-RX音声処理参考_Silenceの特性.mov-RX音声処理参考_子音yに乗るノイズ除去.mov-RX音声処理参考_巻き舌処理.mov-RX音声処理参考_滑舌修正.mov-MouseDeclickで綺麗になりすぎてシャバシャバになるおじさん.mov(Mouth De-click の過剰適用の例)
1. 初期設定(弊社推奨)
1-1. Spectrogram Settings
View → Spectrogram Settings(ショートカット: ⇧⌘,)を開き、以下を変更する。
| パラメーター | 推奨値 | 理由 |
|---|---|---|
| Color Map | Multicolor1 |
音の強さをカラーコード順(黒→茶→赤→オレンジ→黄→緑→青→紫→ピンク→白)で表示し、ピーク帯域・ノイズ箇所が視覚的に分かりやすい |
| CacheSize MB | 200(MAX値) |
キャッシュを多くすることで動作が安定する |
1-2. Feathering の設定
メイン画面下のカーソルツール群から「羽毛」マーク(魔法のステッキの2つ右)をクリック。
| パラメーター | 推奨値 | 注意 |
|---|---|---|
| Selection Feathering (ms) | 10 ms |
選択箇所の境界から内側にかけてクロスフェードが自動で入る。0 にするとクロスフェードが発生せず、クリップノイズの原因になるので必ず設定すること |
ポイント: Feathering があることで、ゼロクロスポイントを探したり手動でフェードを入れる手間が省け、ざっくり選択した範囲でも自然な無音処理が可能になる。ボイスエディットの速度を大幅に向上させる重要な設定。
1-3. Preference / キーボードショートカット設定
iZotope RX10 → Preference...(ショートカット: ⌘,)→ Keyboard タブで設定する。
上書き保存を ⌘S に変更
Show commands containingにsaveと入力File.Saveを選択 → Shortcut の⌘SをRemoveFile.SaveOverwriteOriginalを選択 →option+⌘SをRemovePress shortcut keyボックスに⌘Sを入力 →Assign
Spectral Repair のショートカット割り当て
Show commands containingにspectralと入力Apply.SpectralRepair.Attenuateを選択 →AキーをAssignApply.SpectralRepair.Replaceを選択 →SキーをAssign
| ショートカット | 機能 |
|---|---|
⌘S |
上書き保存(Overwrite Original File) |
A |
Spectral Repair: Attenuate 実行 |
S |
Spectral Repair: Replace 実行 |
T |
時間選択ツール |
R |
時間-周波数選択ツール |
Shift+S |
Silence(無音化) |
⌘G |
クリップゲインライン表示/非表示 |
⌘E |
ファイル書き出し |
⌘B |
Batch Processor を開く |
2. 選択ツール(Editor Cursor Mode)
ボイスエディットで使う選択ツールは 2種類のみ。この2つを常に切り替えながら作業する。
| ツール | ショートカット | 用途 |
|---|---|---|
| 時間選択ツール | T |
時間軸方向の範囲選択 |
| 時間-周波数選択ツール | R |
時間×周波数の矩形範囲選択(ノイズをピンポイントで選択) |
ボイス収録は完全遮音された収録ブースで行うため、環境ノイズ・機器ノイズはほぼ発生しない。そのためその他の選択ツールはほとんど使用しない。
3. よく使うモジュールと推奨設定
3-1. Silence(無音化)
ショートカット: Shift+S
ボイスエディットで最も使用頻度が高い処理。選択範囲を無音化する。
- Feathering(
10 ms)が有効なため、選択境界の内側にクロスフェードが自動で入り、クリップノイズが発生しない - 処理自体が軽く、再生中でも処理できる(再生が止まらない)
- 慣れてくると、まだ再生されていない未来軸のスペクトラム波形を目視でノイズ検出し、先んじて処理することができる
コツ: ざっくり選択しすぎるとうまく処理されないため、ある程度の精度は必要。練習で感覚をつかむこと。
3-2. De-Click
用途: インパルスノイズ(「パチッ」という縦長で短いノイズ)の除去。主に中低域のインパルスノイズをターゲットとする。
弊社推奨設定
| パラメーター | 設定値 |
|---|---|
| Algorithm | Multi-band (periodic clicks) |
| Frequency skew | デフォルト |
| Sensitivity | 6 |
| Click widening [ms] | デフォルト |
コツ: 一番下の周波数帯まで選択してかけると取りやすい。 注意: 選択範囲が 4000サンプル以下 の場合は仕様により実行できず、
Interpolateが実行されてしまう。
3-3. Mouth De-Click
用途: 収録時の口内のリップノイズ(「ピチッ」という縦長で短いノイズ)の除去。中高域のインパルスノイズをターゲットとする。De-Click とは対象帯域が異なる。
弊社推奨設定
| パラメーター | 設定値 |
|---|---|
| Sensitivity | 10.0(MAX値) |
| Frequency skew | デフォルト |
| Click widening [ms] | デフォルト |
コツ: 「かきくけこ」「たちつてと」「ぱぴぷぺぽ」など、濁音・破裂音が重要な音のアタック部分は選択しないように処理する。 禁止: ファイル全体に一括でかけないこと(音質が劣化する)。
3-4. Spectral Repair
RX の代表的な処理機能。選択したノイズ区間の外側を参照し補完処理を行うことで、ノイズ除去後に「穴あき」が生じない。リテイクやスルーでしか対応できなかったノイズへのアプローチが変わった、革命的な機能。
弊社では Attenuate と Replace の2つのみを使用する(ショートカット A / S で実行)。
Attenuate(ショートカット: A)
用途: 横に伸びた連続音(母音、息継ぎなど)に重なるノイズの減衰処理。
| パラメーター | 設定値 |
|---|---|
| Bands | 1024 |
| Surrounding region length [%] | 100(デフォルト) |
| Strength | 1.0(デフォルト) |
| Multi-resolution | チェックあり |
| Before/after weighting | 0.0(デフォルト) |
| Direction of interpolation | Vertical |
時間-周波数選択ツール(
R)で選択すると、選択範囲の上下に補完参照先の幅が表示される。横方向の連続音に限定して使うため、Direction はVerticalを使用。
Replace(ショートカット: S)
用途: 縦に伸びた破裂音系のノイズ。De-Click・Mouth De-Click で取りきれなかったリップノイズやクラックノイズに使用。
| パラメーター | 設定値 |
|---|---|
| Bands | 128(最低値) |
| Surrounding region length [%] | 25(最低値) |
| Multi-resolution | チェックなし |
| Before/after weighting | 0.0(デフォルト) |
3-5. Voice De-noise
- 用途: 定常ノイズ(エアコン、空調等)の除去
- 注意: 強くかけすぎると音質劣化の原因になる
3-6. De-plosive
- 用途: 破裂音(パ行、バ行)のポップノイズ除去
- 注意: 自然な発音を維持する
3-7. Phase
位相を回転させることで不均一な波形のバランスを整える。音量は変わらず聴感上も信号への影響はない。
効果: - 波形均一化によりヘッドマージンが増え、ボリュームを稼ぎやすくなる - コンプ・リミッター処理時に片側のスレッショルドに引っ張られて過度にリダクションがかかる現象を抑える
推奨設定
Adaptive Phase Rotationにチェックを入れ、あとはデフォルトのまま
Batch Processor の MODULE CHAIN に組み込んで使うと特に有効。DC オフセット平均化の精度は他ツールに類を見ない。
3-8. Fade
Fade In / Fade Out のカーブ設定。弊社ではデフォルトの Log カーブをそのまま使用。
重要: Fade In と Fade Out を別々に反映させるには、ポップアップ画面で In/Out を切り替えて Apply を押す必要がある。ショートカットを設定すると効率的。
- Pro Tools 準拠の場合: D(Fade In)、G(Fade Out)を推奨
3-9. Loudness Control
ラウドネス値を監視・調整するツール。ゲームボイスなど納品フォーマットに音量指定がある案件で使用。
IntegratedとTruePeakに指定レベルを入力し、音量監視しながら編集できるRenderボタンで指定レベルまで一発調整(TruePeak 超えにはピークリミッターが作動)
注意: Render 後にラウドネス値が大幅にずれる場合は、再検知が必要。 再検知方法: クリップゲインライン表示(
⌘G)→Shiftキーを押しながらクリップゲインラインをクリック
4. ボリューム調整とプラグイン
4-1. クリップゲインライン
ショートカット ⌘G で表示。ライン上にカーソルを移動してクリックするとボリュームポイントが追加され、ドラッグでボリュームカーブを描ける。
Commandを押しながらクリック: ライン上以外の任意の場所にポイントを追加- カーブを維持したまま全体ボリュームを上下させる:
Shiftを押しながらクリップゲインライン上をドラッグ
4-2. プラグイン(LoudMax)
RX にはリミッター単体が標準装備されていない。弊社ではLoudMax(フリー・Apple Silicon 対応)を使用。
インストール手順(Mac):
- インストーラーを解凍し、
LoudMax.componentを以下にドラッグ:/Library/Audio/Plug-Ins/Components - RX の
Preference→Plug-insタブ →AudioUnits→Scan AudioUnitsをクリック - RX 右側ツール一覧 →
Plug-inをクリック →Select plug-inからLoudMaxを選択
推奨設定:
| パラメーター | 設定値 |
|---|---|
| Threshold | -1.0 |
| Output | 0.1 |
プリセット保存後、
Set Preset Shortcutでショートカットキーを割り当てると、プラグインの呼び出し・設定をワンキーで実行できる。Neutron の NoiseGate や Comp 等も同様に管理可能。
5. Batch Processor(バッチ処理)
ショートカット: ⌘B
大量ファイルの形式変換・一括処理に使用。ゲームボイス編集ではファイル形式変換を一度に大量処理することが多いため、個別書き出し(⌘E)より Batch Processor を推奨。
構成: - 左: INPUT — 変換元ファイルをドラッグ投入(フォルダごとドラッグも可、フォルダ内のオーディオファイルを自動検出) - 中: MODULE CHAIN — 処理を上から順に実行。処理順の変更はドラッグで行う - 右: OUTPUT — フォーマット指定(複数形式を同時書き出し可能)
Location→Choose location→Custom locationで別フォルダを指定すると、フォルダドラッグ投入時のフォルダ階層が維持される。 変換フロー一式をプリセット保存でき、案件ごと・クライアントごとのプリセット管理を推奨。
6. 処理フロー(標準)
1. 問題の特定
- スペクトログラムで問題箇所を目視確認(Color Map: Multicolor1 で視認しやすい)
- ヘッドフォンで注意深くリスニング
2. ノイズ処理の順序(目安)
| ステップ | ツール | 対象ノイズ |
|---|---|---|
| 1 | De-Click | インパルスノイズ(中低域)「パチッ」 |
| 2 | Mouth De-Click | リップノイズ(中高域)「ピチッ」 |
| 3 | Spectral Repair: Replace | De-Click/Mouth De-Click で取りきれなかった破裂系ノイズ |
| 4 | Spectral Repair: Attenuate | 横に伸びた連続系ノイズ |
| 5 | Silence | その他の不要音・無音化処理 |
3. 品質確認
- 処理後の全体再生チェック
- 不自然な箇所がないか確認
注意事項
- ノイズ処理は「除去」ではなく「低減」が基本
- 原音の自然さを損なわないことを最優先
- Mouth De-Click はファイル全体に一括でかけない
- Feathering は必ず
0以外に設定する(10 ms推奨) - 判断に迷う場合は上長に相談
更新履歴
| 日付 | 変更内容 | 担当者 |
|---|---|---|
| 2026-03-31 | Udemy 講座資料をもとに全面改訂(初期設定・ショートカット・各モジュール推奨設定・バッチプロセッサー等を追記) | — |
| 2026-03-05 | 初版作成 | — |